島へ行こうよ
ISBN:9784863870123、本体価格:円
日本図書コード分類:C1037(教養/単行本/社会科学/教育)
360頁、寸法:148×210×mm、重量g
発刊:2011/04

島へ行こうよ

【はじめに】
 瀬戸内海の島々は、穏やかに波よす海と、ゆるやかな風に吹かれて、松の緑はどこまでも青々とする、優雅な風景をいつも我々に見せてくれている。私達はこういう風景をあきずに眺めている。瀬戸内海沿岸に住む人の喜びの一つである。
 しかし島々では現在さまざまな問題に直面している。そのひとつが人口の自然減少の問題である。昭和時代の高度経済成長期に、若い年齢層が島を去っていった。そして子育てをする世代がいなくなり、次々に島に子供がいなくなった。人口の社会減少である。そしてとうとういつか来ると予測されていた、島に残った親世代が高齢になり死亡する事態が、現在進んでいる。こうなると今まで営まれていた島の生活がすべて消えてしまうことすら想像される、世界に小さな島では直面している。

 次の点で我々は島に人が住み続けていただきたいと考えている。島を一度原野に戻すと、島に居住空間を確保することが難しくなる。さらに新たにそこで暮らす人々は再び社会的なルールを作らねばならない。また島が築いてきた歴史的な文化は灰燼に帰してしまう。今進行している現象には、何か新しい人の動きの流れを作らない限り、島に住む人がいなくなってしまう。

 島に人が住み続けてもらいたい。この目的のためにこういうモデルを考えた。島に住んでもらえる人は島が好きな人である。そして今まで島で築かれた文化を尊重できる人である。私達のモデルでは、住みたいという人の誰にでも島に来てもらいたいというのではない。今まで存続してきた島の生活を尊重できる人である。一島民として、島の発展を考えてくれる人である。自分の楽しみだけを優先する人、身勝手に現在島にあるものを利用することだけを考えている人には来てほしくない、と考える。島の人口が増えさえすればいいという考えとも違っている。今まで暮らしてきた島の生活の延長上にこれからの島の生活を直結して考えたいのである。多くの地方公共団体が誘導策として掲げている、島に都市住民のセカンドハウスを建ててもらう案というのは、我々の考えとは相違している。彼らは島の中に自分達だけのテリトリーを設けてしまう。彼らは島のよい所だけをかすめ取っていく存在のようにも見える。

 島の面白さを感じる人、島に興味のある人に住んでもらいたい。でもそのためには、まずは島に行ってみたい気持ちを抱かせたいと考える。私たちは島に行ってみたいと思わせる情報を発信したいと考えた。ただ面白い、素晴らしいという情報だけではなく、学生が島で感じた生の気持ちを発信して、共感してもらい、その先は訪れた人の気持ちの進み方によって島へ暮らしてもらえるかもしれない。自分達が感じた興味を発信したいと考えている。

 ここに収められている文章は学生たちの目に映った島の姿であり、それを確かめに島に来てもらえることを考えて書かれた文である。
 この本には3人の教員のゼミで、ゼミ生が作成した文を並べている。まず稲田道彦ゼミの学生の文章を並べた。ここには島へ来てもらいたいという気持ちを根底に持ちながらも自分達が興味に感じたことを書いている。
 次に大賀睦夫ゼミの論文である。ここにはゼミで進めてきた、小豆島遍路を経験し、人生を考える旅行を考えてきた学生の、小豆島と遍路に関して考えて文が載せられている。小豆島遍路を経験してみたくなる気持ちを誘えば本望である。

 最後に金徳謙ゼミの学生が瀬戸内海の島で調査した論文が掲載されている。島での観光者の行動に興味を持っている。綿密な調査に基づく考察が載せられている。三者三様のゼミで進められた島に対する考えを楽しんでいただきたい。

 私達が属する香川大学経済学部地域社会システム学科では2009年度から「質の高い大学教育推進プログラム」の指定を受け「現場主義に基づく地域づくり参画型教育」を行ってきた。そこで行われた教育プログラムの成果も今回の論考の中には含まれていることを記しておく。学生は現場で考え何とかしたいという気持ちをはぐくむことができたのであれば関わった教員としては大きな喜びである。
 2011年3月1日  執筆者を代表して  稲田 道彦

【あとがき】
 私達は島の専門家や研究者の目線ではなく、「大学生が感じる島への興味・魅力」をコンセプトに多くの瀬戸内海の島々を歩きまわった。その中で特に強く感じたことは島の魅力は島に行くことでしか感じることができないということである。私達も島に行く前は、「田舎で人が少ない」「不便な場所」とマイナスイメージばかりが先行していたが、頭で考えている以上に島の空気はおいしく澄んでおり、森の緑や海の青色は普段の生活ではなかなか味わうことができない美しさであった。また自分自身の足音しか聞こえないほどの静けさを感じることもでき、非日常的な空間を味わうことができた。自然だけでなく島民の方々の温かさに触れながら、島の歴史的側面や日常生活を垣間見ることで自分達との違いに驚かされると同時に多くの発見があり、島の魅力を感じることがで
きた。
 しかしながら調査を進めていく中で、島には交通の不便さ、過疎化、人口減少、島の衰退など数々の避けられない問題が山積していることも思い知らされた。この問題にどう取り組んでいくべきかはこれらの島に住む人々だけではなく、日本に住む人々全ての人が関心をもって解決していかなければならない課題である。
 そのためにはまずは島に興味を持ち、足を運び、島の匂いや風や色を体いっぱいに感じて島を好きになってもらいたい。その前段階としてこの本を読み、何か一つでも島に興味を持つことができるテーマを見つけて、きっかけとして頂ければ幸いである。
  辻 健太

【目次】
〔稲田ゼミ〕
香川県の離島における人口減少(中村 恭彰)
島の未来と学校の関係(古家 絵里子)
香川県の離島における衰退現象と未来の離島の姿(大谷 素輝)
島々と瀬戸内国際芸術祭(成瀬 裕一)
特産品と観光地(藤本 菜緒)
島における医療(角名 一紀)
診療船と島民(白潟 祐里)
宿がある島ない島(安藤 良太)
島の祭(安藤 良太)
商店と自動販売機にみる島の未来(浦田 堅人)
小豆島と関西テレビ(山口 華澄)
沖之島に流れる時間が与えてくれるもの(岩崎 春加)
国道が海の上にある?(石橋 尚)
小豊島の畜産(古家 絵里子)
豊島事件~石井亨氏の思い~(浦田 堅人)
男木島の美的景観(神原 実)
直島の本当の魅力とは(佐藤 遥菜)
鉄道の走る島(角名 一紀)
島の住民に突撃インタビュー!!(服部 達也)
石の島で生まれた信仰(白潟 祐里)
島の消防団(山木 詩穂子)
島の郷土料理~茶粥~(松下 莉奈)
丸亀市本島笠島地区の重要伝統的建造物群保存地区とこれからの在り方について(辻 健太)
咸臨丸と本島~太平洋横断を支えた塩飽の水夫~(二宮 和裕)
発見! 伊吹島の民俗(堤 康平)
伊吹島のいりこ(松下 莉奈)
瀬戸内海で味わう京都言葉(井上 啓太)
立ちはだかる伊吹島の坂道(井平 博朗)
伊吹島の民俗資料館から見る島の今後(辻 健太)
〔大賀ゼミ〕
小豆島遍路の歴史的変遷(西山 優樹・宮内 崇匡)
〔金ゼミ〕
瀬戸内観光のもてなしに対する認識(池内 愛)
属性による回遊行動の違い ―小豆島を事例に―(木口 友里)
小豆島における観光者の発地情報の影響(橋本 由加里)
直島における観光者行動調査と地域振興(菅井 浩文)
直島と犬島にみる観光地形成過程(佐藤 彩)
観光者行動の類型化(福家 美佐紀)
観光者行動の類型化 ―直島を事例に―(小原 有加)

【著者紹介】
〔編集者〕
香川大学瀬戸内圏研究センター
〔著者〕
中村 恭彰
古家 絵里子
大谷 素輝
成瀬 裕一
藤本 菜緒
角名 一紀
白潟 祐里
安藤 良太
浦田 堅人
山口 華澄
岩崎 春加
石橋 尚
神原 実
佐藤 遥菜
服部 達也
山木 詩穂子
松下 莉奈
辻 健太
二宮 和裕
堤 康平
井上 啓太
井平 博朗
西山 優樹
宮内 崇匡
池内 愛
木口 友里
橋本 由加里
菅井 浩文
佐藤 彩
福家 美佐紀
小原 有加