近世後期讃岐の地域と社会
ISBN:9784863870277、本体価格:3,500円
日本図書コード分類:C1021(教養/単行本/歴史地理/日本歴史)
318頁、寸法:158×218×22mm、重量575g
発刊:2012/11

近世後期讃岐の地域と社会

【あとがき】
 昨年の7月25日に、美巧社の池上任会長がご逝去されました。お元気そうなお姿を拝見していただけに、信じられない気持ちでありました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
 池上任会長にはじめてお会いしたのは、今からほぼ40年前の昭和47年のことで、香川歴史学会の機関誌『香川史学』の刊行のお願いにいったときでした。池上会長は財政的にゆとりのない香川歴史学会の状況に理解を示され、機関誌の発行を快くお引き受けいただきました。
 その後も『香川史学』の刊行を続けて下さり、お陰で『香川史学』は、来年で四○号を迎えることになりました。池上会長のご理解とご協力がなければ、『香川史学』は勿論、現在全国的に知られるようになり、香川県における地域史研究の中心的役割を果たしている、香川歴史学会も存続することはできませんでした。
 池上会長はかねてより讃岐の歴史に関心をもっておられ、讃岐地域史の通史的研究書である『古代の讃岐』・『中世の讃岐』・『近世の讃岐』の出版に熱意を示されました。私自身も『地域にみる讃岐の近世』・『藩政にみる讃岐の近世』・『史料にみる讃岐の近世』の刊行に、多大なご配慮をいただきました。
 池上会長には私だけでなく、讃岐地域史の研究に関係した多くの人たちがお世話になっております。池上会長のご意志を生かして、そのご恩に報いるために、私たちは今後とも讃岐地域史の研究の向上、発展に努力しなければなりません。
 本書は、近世後期の讃岐の各研究領域に関して、古くは34年余り前から、新しくは1年半前までに、機会あるごとに執筆してきたものを集めた論文集であり、一つのテーマのもとにまとめたというものではありません。したがって『近世後期讃岐の地域と社会』という、漠然とした表題にならざるを得なかったことを、ご了解いただきたいと思います。
 本書は八論文から成っていますが、内容的には地域・社会史の側面が強いといえますので、Ⅰ部を「藩と地域」、Ⅱ部を「地域の社会諸相」という二つの構成に整理しました。この整理の仕方については若干の躊躇いを感じているところですが、不適切な点はご海容下されば幸いです。また個々の論稿についての解説は、紙数の関係もあり、省略したことをご了承下さい。
 なお、本書の表題の『近世後期讃岐の地域と社会』には適当ではありませんが、巻末に附論として、近世始めの讃岐にとって重大な事件であった、「生駒騒動」について史料的な検討を試みたもの、それと幕末の讃岐の農業・経済状況とも関連する、明治中期の香川県農業に関して統計表を中心にして論究したものを収載しました。お許しいただきたいと思います。本書が讃岐近世の地域史の研究に、少しでも役に立つことができれば幸いです。
 本書に収載した拙稿の原題と掲載誌等は次のとおりです。

〔Ⅰ部 藩と地域〕
第一章 久米栄左衛門の経済論と高松城下
    (「久米栄左衛門の高松藩経済論」『徳島文理大学文学論叢』第25号。2008年)
第二章 高松藩と坂出塩田
    (「高松藩坂出塩田と久米栄左衛門」『香川県立文書館紀要』第15号。2011年)
第三章 「諸事日記覚帳」にみる丸亀藩農村
    (「幕末維新期丸亀藩の農村―「諸事日記覚帳」から―」『徳島文理大学比較文化研究所年報』第26号。2010年)第四章 高松藩の農兵と高島流歩兵
    (「高松藩における農兵と高島流歩兵」『徳島文理大学文学論叢』第27号。2010年)
〔Ⅱ部 地域の社会諸相〕
第五章 高松藩領上多肥村平井出水の「水論」
    (「高松藩領平井出水の水論について」高松市教育委員会『讃岐国弘福寺領の調査―弘福寺領讃岐国山田郡田図調査報告書―』。1992年)
第六章 高松藩領坂出村の砂糖と塩
    (「讃岐高松藩領坂出村と商品生産」有元正雄編『近世瀬戸内農村の研究』。溪水社、1988年)
第七章 讃岐の廻船と太神丸・可孝丸
    (「近世における讃岐の廻船について」松岡久人編『内海地域社会の史的研究』。溪水社、1978年)
第八章 金毘羅と歴史的景観の成立
    (「金毘羅における歴史的景観の成立事情―玉垣・金堂・高燈籠にみる―」『歴史環境を考える』。美巧社、2003年)
附論Ⅰ 「生駒騒動」の史料的検討
    (「讃岐『生駒騒動』の史料的検討」『徳島文理大学比較文化研究所年報』第25号。2009年)
附論Ⅱ 明治中期の香川県農業―統計表の分析からみた―
    (「解題『香川県農事調査』」『明治中期産業運動資料・第13巻』。日本経済評論社、1980年)
    (「明治10年代における香川県の農業について―統計表の分析を中心にして―」『香川大学教育学部研究報告』第Ⅰ部第49号。1980年)

 不適切な文章を修正したり、説明不足だった箇所の補訂を行った部分はありますが、論旨に関して変更はしていません。附論Ⅱの「明治中期の香川県農業」については、「解題『香川県農事調査』」と「明治10年代における香川県農業」の重複部分を整理して、一つの論考にまとめ直したものです。今後の香川県の明治の農業・経済史の研究に、参考になるところがあればと思っています。
 本書に収載した拙稿をまとめるに当たり、県内各地に保存されている多くの古文書を拝見させていただき、所蔵されている方々や資料館等にご理解とご協力を賜りました。厚くお礼を申し上げます。
 終わりに当たって私事にわたり恐縮ですが、香川大学を定年退職してのち、徳島文理大学文学部文化財学科に7年の間お世話になりました。そして徳島文理大学も退職して二年半が経ちました。幸いにも今は何とか体調を維持できていますので、これからも讃岐地域の近世史研究に精進したいと思っています。これまでのご支援に感謝申し上げ、今後ともご鞭撻のほど宜しくお願い致します。最後に、共に生活を始めて今日に至るまで、私の研究者生活を支えてくれた妻美津子に、心からの謝意を伝えたいと思います。
     平成24年7月17日  木原 溥幸

【目次】
Ⅰ部 藩と地域
 第一章 久米栄左衛門の経済論と高松城下
  はじめに
  一 年貢収納と藩札
  二 「江戸廻金」の確保
  三 「高松城下諸出入凡積覚」
  四 「川口諸問屋仕切出金」と「諸問屋出金下書」
  おわりに
 第二章 高松藩と坂出塩田
  はじめに
  一 西新開と東新開
  二 吉本弥之助と久米栄左衛門
  三 塩田築造の資金
  四 新開塩の取引
  おわりに
 第三章 「諸事日記覚帳」にみる丸亀藩農村
  はじめに
  一 郷中帯刀人
  二 「田面改・永捨年季捨」
  三 綿・砂糖・.の生産
  四 「諸職人役銀」の徴収
  五 「固場所」の設置
  六 農兵の取立
  おわりに
 第四章 高松藩の農兵と高島流歩兵
  はじめに
  一 「固場」と「牢人」
  二 農兵と「鉄炮稽古」
  三 村落の対応
  四 見張番所と農兵
  五 高島流歩兵と高島流砲術
  おわりに
Ⅱ部 地域の社会諸相
 第五章 高松藩領上多肥村平井出水の「水論」
  はじめに
  一 平井出水と下林村
  二 天保四年の「入割」
  三 「内済」と普請・浚
  四 「入割」の決着
  おわりに
 第六章 高松藩領坂出村の砂糖と塩
  はじめに
  一 砂糖生産の展開
  二 砂糖為替銀と「絞屋」
  三 塩田築造と古浜
  四 新開と坂出浦の発展
  おわりに
 第七章 讃岐の廻船と太神丸・可孝丸
  はじめに
  一 『諸国御客船帳』と讃岐
  二 小豆島苗羽の太神丸
  三 豊田郡姫浜の可孝丸
  おわりに
 第八章 金毘羅と歴史的景観の成立
  はじめに
  一 玉垣の寄進
  二 金堂の建立
  三 高燈籠の建設
  おわりに
 附論Ⅰ 「生駒騒動」の史料的検討
  はじめに
  一 「生駒記」と『藩翰譜』
  二 『徳川実紀』と『御当家紀年録』
  三 生駒家文書「生駒高俊覚書」(写)「三野四郎左衛門覚書」(写)
  四 山内家文書「柴田覚右衛門・谷川七左衛門連署書状」
  五 毛利家文書「公儀所日乗」「国司備後守・福間彦右衛門尉連署書状」「安倍四郎五郎書状」
  六 細川家文書「細川忠利書状」
  おわりに
 附論Ⅱ 明治中期の香川県農業―統計表の分析からみた―
  はじめに
  一 近世後期の商品生産
  二 明治十年「全国農産表・讃岐国」
  三 明治十年代の農業生産
  四 明治二一年『香川県農事調査』
  五 『香川県農事調査』にみる農業
  六 明治中期地主制の展開
  おわりに
 あとがき

【著者紹介】
〔著者〕
木原 溥幸