道徳教育に求められるリーダーシップ
ISBN:9784863870703、本体価格:1,500円
日本図書コード分類:C1037(教養/単行本/社会科学/教育)
110頁、寸法:148×210×6mm、重量192g
発刊:2016/03

道徳教育に求められるリーダーシップ

【はじめに】
 2020年の東京オリンピック・パラリンピックの招致活動において、有名になった「お・も・て・な・し」は、日本人の特徴や行動様式を顕著に示す言葉として、そのポーズとともに世界に知れ渡った。心を込めて接遇するというような意味合いであり、例えば、お遍路におけるお接待など、奉仕の精神に基づくものが日本的な文化としても知られる。
 また、日本人の伝統的なものの見方や考え方に根ざした生き方は、ルース・ベネディクトによって書かれた『菊と刀』でも、「恥の文化」として、欧米の「罪の文化」と対比して説明された。しかし、現実の社会をみると、その恥じらいや世間の目などを気にせず、個人の損得勘定や自己都合を優先した、良心の欠如とも言うべき多くの問題が見られる。学習指導要領解説道徳編にも次のような社会的風潮が社会全体の規範意識やモラルを低下させ、児童生徒の道徳性の育成にも大きな影響を与えているとする指摘がある。

ア 社会全体や他人のことを考えず、専ら個人の利害損得を優先させる。
イ 他者への責任転嫁など,責任感が欠如している。
ウ 物や金銭等の物質的な価値や快楽が優先される。
エ 夢や目標に向けた努力,特に社会をよりよくしていこうとする真摯な努力が軽視される。
オ じっくりと取り組むことなどのゆとりの大切さを忘れ、目先の利便性や効率性を重視する。(小学校学習指導要領解説道徳編H20、21頁)

 このような社会的風潮は、社会全体の規範意識を低下させ、それが子どもたちの心の成長にもマイナスの影響となり、本来もっている人間としてよりよく生きようとする力を弱めかねないと危惧されている。言い換えれば、社会全体のモラルの低下が、個人の倫理観にマイナスとして作用し影響を与えかねないということである。しかし、その社会を構成している一人一人は、学校教育において、取組の違いはあれども道徳教育を通じて学んできたはずであることも忘れてはならない。
 学校教育に携わる者として、先哲が考究した、「人は本来どう生きるべきか」「善さとは何か」等の倫理的な問いかけを探究する重要性を再認識し、一人でなく学校の全教職員と共に語り合える場や機会を大切にしたいものだ。自校で
「子どもの心をどう育むべきか」まさに、「人間としてのよりよい生き方や在り方」をどのように教育活動のなかで追求していくのか、道徳の教科化に向けて、今こそ語り合ってほしい。
 道徳の時間が教育課程に位置づけられて、60年近くになる。その間、熱心に道徳教育に取り組まれてきた先生方が多くいる。しかし、学校全体として道徳教育を推進してきたかと問われるとどうであろう。「校長の方針の下」、「全教師が協力して道徳教育を展開」、「学校の教育活動全体を通じて」、見聞きしたこれらの言葉、その実践は如何だろうか。
 今、道徳の教科化に伴い、道徳教育や道徳の時間の実効性が求められており、より着実に推進していくためには、組織としての学校におけるリーダーシップに対する期待が大きい。そこで、本書では、校長、副校長、教頭などの管理職、道徳教育推進教師、道徳主任、地域で推進するリーダー、並びに行政の道徳教育担当者を対象とする、分かりやすい道徳教育の理論と多様な事例等を掲載する実践の書となることを願って執筆編集したいと考えた。
 1章では、教科化に向けて道徳教育の重要性やリーダーシップの必要性について記した。2章では、学校の特色ある行事を核とした取組、市町教委の重点や方針を生かした取組、「いじめ0」に向けた取組、ローテーション方式を取り入れた取組など、多彩な小・中学校の実践例を紹介する。3章では、校長を支える副校長・教頭、道徳推進教師の果たすべき役割について、具体的にまとめている。4章では、道徳教育の充実に向けた推進体制や研修の在り方について、行政での研修や校内研修の取組について紹介する。
 道徳の教科化に向けて、各校で準備を含めて取り組んでいく際に、道徳教育を推進する立場の様々な視点から、学校教育活動全体で取り組む道徳教育の参考になる書ともなればと願っている。組織としての推進と校長としての役割、学校経営方針と道徳の重点目標をつなぐためにできること、校長の道徳教育マネジメント力など、道徳教育推進の一助となれば幸いである。
七條 正典
植田 和也

【目次】
はじめに
第1章 教科化に向けて道徳教育の重要性
 Ⅰ 改正学習指導要領における道徳教育
 Ⅱ 道徳教育を推進するリーダーシップの必要性
 Ⅲ 道徳教育を推進するリーダーシップと組織マネジメント
第2章 道徳教育と学校経営~校長ができること、すべきこと~
 Ⅰ 校長に求められる道徳教育充実のための役割と期待
 Ⅱ 経営ビジョンの具現化を図る道徳教育の取組
 Ⅲ 校長ができること、すべきこと
 Ⅳ 我が校の特色ある道徳教育の取組~いじめ「0」の学校づくりに向けて~
 Ⅴ 校長による道徳授業~道徳授業モデルとして~
 Ⅵ 学校全体で推進する「感謝プロジェクト」
 Ⅶ 全校体制で道徳授業に取り組んだ事例(必ずできる道徳の授業)
 Ⅷ 校長ができること、すべきこと
 Ⅸ 教師の指導力向上と道徳の授業公開
 Ⅹ 全校道徳としての校長講話
第3章 副校長・教頭、道徳教育推進教師の果たすべき役割と期待
 Ⅰ 副校長・教頭、道徳教育推進教師の役割と今後への期待
 Ⅱ 副校長・教頭、道徳教育推進教師ができること
 Ⅲ 道徳教育推進教師や道徳主任の腕の見せどころ
 Ⅳ 道徳教育推進教師や道徳主任のこれからの役割
 Ⅴ 道徳教育推進の環境づくり
第4章 道徳教育の充実に向けた推進体制や研修の在り方
 Ⅰ 学校を支援する教育委員会の施策・研修~高松市教育委員会の取組を中心に~
 Ⅱ 若年教員を育てる校内研修の工夫
 Ⅲ 校内の活性化を図る多様な研修の在り方
 Ⅳ 研修や公開を通じて教師力の向上
資料
おわりに
執筆者一覧

【著者紹介】
〔編著者〕
七條 正典
植田 和也
〔著者〕
伊藤 裕康
岡田 保
日下 哲也
坂井 親治
島内 祥夫
清水 顕人
谷本 里都子
西尾 洋之
秦 照幸
前 裕美
宮井 優寿
宮脇 啓
宮脇 充広
山本 木ノ実
吉原 聖人