小学校英語教育概論
ISBN:9784863871144、本体価格:1,500円
日本図書コード分類:C1037(教養/単行本/社会科学/教育)
194頁、寸法:148.5×210×12mm、重量307g
発刊:2020/03

小学校英語教育概論

【まえがき】
With a willingness to communicate
 世の中は狭くなりつつある。つい最近までなかなか手に入らなかった情報がいろいろなアプリのおかげで無料で即時に手に入るようになった。教育現場では、従来の情報を丸暗させる教育より、判断力、思考力、表現力といった情報の活用能力のほうが重要となってきた。英語教育の分野では、従来の英語教育で重視されてきた音読や文法の知識の蓄積より、英語によるコミュニケーション能力(話す力、聞く力)や「英語で自分の考えを自ら英語で発信する力などが求められるようになった。
 20年前に小学校英語教育として、特別指定学校で英語を導入する方法を探るプロジェクトが始まった。この小学校英語は2020年から正式な教科として現場に導入される。小学校3年生と4年生は外国語活動として、5年生と6年生は外国語になる。新しい教科ゆえに、課題が多々ある。2020年以前は英語は小学校の教科ではなかったため、小学校の教員で英語の免許を持っていた教員の割合は3%であった。2016年から文部科学省が「小学校英語認定法」というプロジェクトを立ち上げ、各県で各小学校に英語のリーダーとして、中心となる教員を育成し始めている。
 小学校英語は「素地」と「基礎」を教える段階である。少しずつ、ゲームや活動、英語に対する気づきなどを通して、英語の単語および表現を身につけさせてゆくが、その際、特に大切なのは「音声から入る」ということである。
 小学校英語教育では「慣れ親しむ」ということが一番重視されている。教員と子どもや子ども同士の英語のやり取りと活動を通して、英語でコミュニケーション能力を育成する。さらに外国人と外国の文化に触れるとともに、日本人としての身近な文化にも気づき、それを紹介できるようになることも目指している。
 英語教育研究には「積極的に伝える意欲」(WTC, willingness to communicate)という分野がある。ところが日本には周りの空気を読んで自分の考えを言わずに行動をするという文化的な風土がある。しかし、子どもは好奇心旺盛で、新しいものに興味がある。これから小学校で英語の授業を受ける児童がしっかり耳から自然な英語に慣れ親しみ、楽しい活動、活発的なクラスルーム・イングリッシュおよびスモール・トークを通して、自信をもって積極的に英語に関する自分の考えを英語で発信できることを、目指してゆきたい。
 そういう筆者らの思いから、この本を執筆することになった。小学校で英語を教えることになった教員がこの本を読み、児童の英語コミュニケーションの向上を目指した楽しい授業ができるようになることを願っている。
  2020年(令和2年)3月 ポール・バテン

【あとがき】
 2020年は小学校高学年・外国語科の全面実施元年です。平成29年3月の小学校学習指導要領改訂によって外国語科が小学校における教科目として位置づけられ、それと同時にこれまで高学年で実施されてきた「外国語活動」は、同じ授業時数を保ちながら中学年に移行されることになりました。
 この改訂により、全国の大学の教員養成学部では「コア・カリキュラム」に対応したカリキュラムを構築することが求められました。最も大きな改革は、小学校教員を目指す学生全員に英語教育を学んでもらうことです。学生の現状や組織の脆弱性に見られる理想と現実の大きなギャップを認識しつつも、新たな学力観に対応した小学校教員を養成しなければなりません。私たちがまず第一に考えたのは、「小学校教員研修 外国語(英語)コア・カリキュラム」に対応したテキストの作成です。
 本書は、大学の教員養成課程で小学校教員を目指して学ぶ学生を対象に開講される「小学校英語指導法」、「小学校英語」での利用に資することを目的に作成されました。また、小学校の先生方に小学校英語研修で利用していただくこともできるでしょう。小学校の職員室にいる先生方のうち3分の2の先生方に英語教育に参画していただく時代に、希望と意欲をもって小学校教育を志す大学生の皆さんに、小学校教諭への道しるべの一つとして本書を利用していただければ幸いです。
 なお、本書の出版に際して香川大学教育学部学術基金(研究成果の刊行に対する援助(出版助成))より多大なるご支援を賜りました。ここに記して謝意を表します。
  2020年(令和2年)3月 永尾 智

【目次】
まえがき
第1部 授業実践に必要な知識・理解
第1章 小学校外国語教育についての基本的な知識・理解
 Unit 1 学習指導要領
  1.小学校外国語教育の変遷
  2.CSの基本概念の理解―コミュニケーション能力と言語活動―
  3.目標の示し方
 Unit 2 主教材
  1.教科書資料の研究方法
  2.教科書の研究
 Unit 3 小・中・高等学校の連携と小学校の役割
  1.小学校・中学校・高等学校の連携を考える視点と具体の手立て
  2.「話すこと[やり取り]」の目標の比較、確認
  3.「言語材料の取扱い」と「題材及び内容」
  4.まとめ
 Unit 4 児童や学校の多様性への対応
  1.ドルニェイ(1994)によるL2動機づけの枠組み
  2.情意フィルター仮説
  3.学習を妨げるものへの対応
 COLUMN 1 言語知識の熟達化
第2章 子どもの第二言語習得についての知識とその活用
 Unit 5 言語使用を通した言語習得
  1.アウトプット、インプット、コミュニケーションの関連性
  2.言語の模倣・反復練習
  3.相手との関わりを通じた言語学習
  4.「全体」から「部分」への気づきを通した言語習得
 Unit 6 音声によるインプットの内容を類推し、理解するプロセス
  1.状況場面、背景情報、既知知識の活用
  2.与えるインプットの質
  3.与えるインプットの量
 Unit 7 児童の発達段階を踏まえた音声によるインプットの在り方
  1.インプットと子どもの母語取得について
  2.長期計画が必要
  3.インプットとアウトプット
  4.児童の単語を吸収する力
  5.日本語と英語の大きい違い
  6.注意:カタカナ英語は通じない可能が高い
  7.教員およびALT等からの良いインプット
  8.まとめ
  COLUMN 2 小学校と中学校の連携について思うこと
 Unit 8 コミュニケーションの目的や場面、状況に応じて他者に配慮しながら、伝え合うこと
  1.状況に応じたコミュニケーションの必然性
  2.態度:やり取りの段取りを意識しよう
  3.反応(リアクション):相手が伝えようとしていることの確認
  4.まとめ
 Unit 9 受信から発信、音声から文字へと進むプロセス
  1.学習指導要領(CS)中の「受信→発信」に関する記載
  2.学習指導要領中の「音声→文字」に関する記載
 Unit 10 国語教育との連携等によることばの面白さや豊かさへの気づき
  1.「黒い目のきれいな女の子」の意味
  2.数えられる名詞と数えられない名詞
  3.意味順による語順に対する言語感覚の育成
  COLUMN 3 小学校英語から中学校英語導入期における英語の授業

第2部 授業実践
第3章 指導技術
 Unit 11 英語での語りかけ方
  1.「宣伝的知識」vs.「手続き的知識」
  2.環境づくり
  3.まとめ
 Unit 12 児童の発話の引き出し方、児童とのやり取りの進め方
  1.発話のモデル
  2.調べたい・知りたいことなどを自力で聞くことのできる力の育成を
  3.確認したい・聞きたい時の児童の発話の引き出し方・進め方
  4.児童の発話の引き出し方・進め方
  5.綴りを推測してみよう
  6.まとめ
 Unit 13 文字言語との出合わせ方、読む活動・書く活動への導き方
  1.文字言語との出合わせ方:外国語活動(小3~4)
  2.読む活動(小5、6)
  3.書く活動(小5、6)
第4章 授業づくり
 Unit 14 学習到達目標、指導計画
  1.カリキュラム・マネジメント
  2.学習到達目標
  3.短時間授業
  4.年間計画・単元計画・授業計画
  COLUMN 4 自らの学習を調整するために~振り返りシートの作成と活用~
 Unit 15 補助題材の選定、教材研究
  1.授業で使用する教科書以外の教材・教具
  2.教材教具の使用目的・チェック
  3.教材研究について:教科書「で」教える
 Unit 16 ALTとのティーム・ティーチングによる指導の在り方
  1.ティーム・ティーチング(team teaching)の意義
  2.ティーム・ティーチングにおける役割分担
  3.外国語(活動)授業での日本人教員による英語使用
  4.授業の事前打ち合わせ・振り返り
 Unit 17 ICT等の活用の仕方
  1.教育機器の活用について
  2.視聴覚教材・ITC活用の効果
  3.効果的な活用のための留意点
  4.視聴覚教材・ITCの効果的な活用のために!
  5.評価資料として活用するための資料として!
  6.おわりに!
 Unit 18 学習状況の評価(パフォーマンス評価や学習到達目標の活用を含む)
  1.観点別学習状況の評価の実際
  2.小学校外国語活動と外国語科の評価
  3.指導と評価の一体化
 COLUMN 5 文字と音のつながり~ピクチャーカードの使い方の工夫~

第3部 授業実践に必要な英語力と知識
第5章 授業実践に必要な英語力
 Unit 19 聞くこと
  1.「聞くこと」の目標
  2.「聞くこと」の言語活動
  3.指導者に求められる「英語を聞く力」
  4.音の認識作り
  5.「聞く力」を向上させるトレーニング
 Unit 20 話すこと([やり取り]・[発表])
  1.「話すこと」の目標
  2.「話すこと」の言語活動
  3.指導者に求められる「英語を話す力」
  4.クラスルーム・イングリッシュとSmall Talk
  5.「英語を話す力」を向上させるトレーニング
 Unit 21 読むこと
  1.「読むこと」の目標
  2.「読むこと」の言語活動
  3.指導者に求められる「英語を読む力」
 Unit 22 書くこと
  1.「書くこと」の目標
  2.「書くこと」の言語活動
  3.指導者に求められる「英語を書く力」
  4.「英語を書く力」の学習
 COLUMN 6 「ちゃんと聞く」聞き手とは
第6章 英語に関する背景的な知識
 Unit 23 英語に関する基本的な知識
  1.英語の音声
  2.英語の語彙
  3.文及び文構造
  4.文字
 Unit 24 第2言語習得に関する基本的な知識
  1.第2言語学習環境と外国語学習環境
  2.Krashenの「モニターモデル」
  3.Krashenの「モニターモデル」と小学校外国語活動及び外国語科
  4.外国語学習のメカニズム
  5.臨界期仮説
 Unit 25 児童文学(絵本、子ども向けの歌や詩等)
  1.児童文学とは
  2.英語の絵本
  3.歌・チャンツ・詩
  4.わらべ歌および詩
  5.まとめ
 Unit 26 異文化理解
  1.異文化理解とは
  2.授業について
  3.自分の文化をまず調べてみる
  4.英語の力vs異文化理解
  5.国際化が進む日本
  6.実践例
  7.教員及びALTの体験の紹介
  8.異文化に関する活動
  9.まとめ
引用・参考文献
あとがき
執筆者一覧

【著者紹介】
〔編著者〕
ポール バテン
中住 幸治
永尾 智
齋藤 嘉則
〔著者〕
大西 範英
久保 孝彰
伊瀨 吏沙
橋本 美穂
福本 香緒里