自己を探求し続ける生徒の育成─聴き合うことでことで深まる自己の「ものがたり」─
ISBN:9784863872219、本体価格:1,500円
日本図書コード分類:C3037(専門/単行本/社会科学/教育)
219頁、寸法:210×283×12mm、重量590g
発刊:2026/06

【まえがき】
初夏の季節が訪れ、緑豊かな風景が目に映える6月です。本日はご多用の中、本校の教育研究発表会にご参加いただき、心より御礼申し上げます。
2年ぶりの香川大学教育学部坂附属出中学校研究紀要をここにお届けいたします。本紀要は本日の教育研究発表会の各発表の基調資料であるとともに本校のこの2年間の教育研究活動の集大成として発刊されるものです。
本校では、長年にわたり継続してナラティブ・アプローチにもとづく授業づくりを通じた学習者の育成について研究を重ねてきました。本研究大会の研究テーマは「自己を探究し続ける生徒の育成-聴き合うことで深まる自己の「ものがたり」-」です。自己の「ものがたり」は、個々の子ども固有の学びであって、他者と全く同じ「ものがたり」は存在しません。しかし他者と共に学び合うことで、自己と他者の「ものがたり」の共通部分がつくられ、やがてそれは学級、学校の文化につながっていくでしょう。このように考えてみると、現在の教育のキーワードとしての個別最適な学び、インクルーシブな学び、多様性、共生などとの共通点が見えてきます。本日の各教科の提案の中で、本校の「ものがたり」の授業が、ご参会のみなさまのこれからの教育実践に寄与することを願っております。
さらに、「共創型探究学習CAN」、「語り合いの時間」も本校では重視しております。「共創型探究学習CAN」は、原則として各学年1名からなる異学年生徒の小集団が最上級生のイニシアティブのもとにそれぞれのユニークなテーマについて自分たちで選んだ方法で探究をしていく活動です。また「語り合いの時間」は、子どもたちが答えのない問いに対して、他者と関わりながらじっくりと自己と向き合い考える活動です。本研究会では、これらの活動を通して、子どもたちの聴き合う姿、他者の言葉をもとに内省する姿、内省で気づいた新たな気付きをさらに語り合う姿を具現化したいと思っております。これらの子どもたちの姿は、教科学習での深い学びの実現にも活きてくると信じております。
本日ご講演いただきます東京大学大学院教育学研究科准教授、一柳智紀先生、香川大学教育学部准教授、岡田涼先生におかれましては、ご多忙な中にもかかわらず、快くご講演をお引き受け頂きました。この場を借りまして厚く御礼申し上げます。
最後になりましたが、本教育研究発表会の開催にあたり多大なご支援を賜りました、香川県教育委員会、坂出市教育委員会、宇多津町教育委員会、綾川町教育委員会、香川県中学校長会、綾歌郡中学校長会、香川県中学校教育研究会、香川県中学校教育研究会坂出・綾歌支部、ならびに関係各位に厚く御礼申し上げます。
令和8年6月5日 香川大学教育学部附属坂出中学校 校長 松島 充
【あとがき】
変化が激しく予測困難な現代を生きる子どもたちにとって、最も必要なのは、「自分はどうありたいか」を問い直し、自らの人生を主体的に舵取りしていく力です。それは言い換えれば、誰かに決められた人生ではなく、自分が自分の人生の「主人公」として生きるということではないでしょうか。私たちの人生は選択の連続であり、主体的に舵取りをすることとは、自らの意志で生き方を選択し、その結果を自ら引き受けていくことに他なりません。
では、生徒たちがそのような力を身につけるために、学校での学びはどうあるべきでしょうか。私たちはその手がかりとして「ものがたり」に着目してきました。ここで言う「ものがたり」とは、いわゆるお話(ストーリー)ではありません。自分が経験した出来事や人生にどのような意味を与えるかという「枠組み」であり、「自分はこういう人間だ」という自己を形作るもの、つまり「私を私たらしめているもの」だと捉えています。
そして、他者・自己・対象と語り合う中で、新たな気づきや学びが自らの経験と結びつき、自分自身が再構築されていく。このプロセスこそが、まさに自己の「ものがたり」を紡ぎ直していく行為です。本校では、この自己の「ものがたり」を更新し続ける行為を「自己の探究」と捉え、研究を積み重ねてきました。
『自己の「ものがたり」は、語り手と聴き手の共同作業によって生まれる』これは、本校が「ものがたり」の研究を始めた平成26年から一貫して主張し、大切にしてきたことです。今期はその中でも特に「聴く」行為に着目し、授業実践を積み重ねてきました。
安心して自分を語れる場と良き聴き手を得て初めて、生徒は自分でも気づけていなかった内面に光を当て、思考の枠組みをより豊かに再構築していくことができます。また、多様な他者の語りに触れ、自分とは異なる価値観に出会うことは、「自分ならどう考えるか」「自分はどうありたいか」という自己内対話を呼び起こし、それまでの自分の枠組みを揺さぶり、自己を更新していくきっかけとなります。うまく言葉にできない考えを懸命に表現しようとする姿、そういった語りの奥にある「心の声」に耳を澄ませようとする教師や生徒。それこそが、安心して自己を語り、深く探究できる学校文化を創り上げるのだと考えています。
本校の研究に多大なるご示唆をくださいました東京大学大学院の一柳智紀先生には、心より感謝申し上げます。本日は、本校研究主任の島根教諭による問題提起のもと、香川大学の岡田涼先生、一柳先生を交えた鼎談、そして一柳先生による「心に耳を澄ます教室」と題した講演を予定しております。これらのお話から、今後の授業づくりに向けた多くの気づきが得られることを期待しております。
未熟な私たちがどれだけ子どもたちの自己の探究に伴走できたのか。今後の研究の発展に向け、厳しくご批判いただければ幸いです。結びに、本研究を温かく支えてくださった諸先生方、そして日々試行錯誤を続けてくれる本校教職員に深く感謝申し上げ、あとがきとさせていただきます。
令和8年6月 副校長 鷲辺章宏
【目次】
まえがき
総論
研究主題
Ⅰ 研究主題について
Ⅱ 今期の研究について
1 研究の目的
2 研究の方向性
3 研究の内容
(1)教科学習(共通学習Ⅰ・共通学習Ⅱ)
(2)「共創型探究学習CAN・シャトル」の取り組み
(3)「語り合いの時間」および特別活動における取り組み
(4)自分史
Ⅲ 主な成果と課題
各教科及び学校保健 提案・指導案
国語 言葉を捉え直しながら創造性を発揮する生徒の育成-互いの考えを推察し合う国語教室を目指して-
社会 これからの社会のあり方を自ら考える民主社会の形成者の育成をめざした社会科学習-「社会観」を聴き合うことを通して「社会的自己」を捉え直す-
数学 数学を学ぶ意味や価値を見いだし自己形成を促す学びの創造-自ら問いをもち、他者とともに数学的に考え、語ることで生まれる「ものがたり」を通して-
理科 進んで自然と関わり、探究する生徒の育成-他者の語りを聴き、つむがれる「ものがたり」を通して-
音楽 音や音楽に意味を見出し、音楽との関わりを深める学習のあり方-音と心で育む豊かな音楽学習をめざして-
美術 創造活動の喜びを通じて生活を豊かにする生徒の育成-実感をともなう創造活動における対話のあり方-
保健体育 健康やスポーツの価値を実感する保健体育学習のあり方-自分の「からだ」を見つめ健康やスポーツと関わることで生まれる「ものがたり」を通して-
技術・家庭 生活を軸に社会の変化に主体的に関わる実践力を育む技術・家庭科教育-生活を見つめ、語り合い、実践することで生まれる「ものがたり」を通して-
外国語 コミュニケーションの喜びを実感する生徒の育成-相手意識をもったやり取りの活動を通して-
学校保健 安心して関われる居場所の在り方-生徒同士の「語ること」を通じた心理的安全性の向上-
公開授業Ⅰ「共創型探究学習CAN」・「語り合いの時間」
鼎談・講演
【鼎談】テーマ「自己を探究し続ける学びの場をつくる」講師 東京大学大学院教育学研究科 准教授 一柳智紀/香川大学教育学部 准教授 岡田 涼
【講演】演題「心に耳を澄ます教室」講師 東京大学大学院教育学研究科 准教授 一柳智紀
あとがき
【著者紹介】
〔編集者〕
香川大学教育学部附属坂出中学校
〔編著者〕
島根 雅史
逸見 翔大
香川 千夏
山﨑 大
加部 昌凡
植原 房代
村上 貴孝
上村 啓介
入江 里美
〔著者〕
藤本 大貴
藤本 大貴
松添 啓子
中居 朋子
宮崎 浩行
井上 真衣
廣石 真奈美
河口 由利子
高木 将志
高橋 妹子