瀬戸内海観光と国際芸術祭 再版
ISBN:9784863871298、本体価格:800円
日本図書コード分類:C1037(教養/単行本/社会科学/教育)
140頁、寸法:148.5×210×7mm、重量194g
発刊:2020/09

瀬戸内海観光と国際芸術祭 再版

【はじめに】
 江戸時代の終わりから明治初期に日本にきた西洋人が瀬戸内海において感じたこと、また瀬戸内海が日本で最初の国立公園に指定される時に人々が感じていたこと、映画『二十四の瞳』で背景でありながらも強い主張をにじませていたこと、それは瀬戸内海の美しさ、さらに言えば平和を感じさせる風景であった。瀬戸内海は美しい。それを構成する要素として、海の美しさ、島の形の美しさ、そこに育っている植物の美しさ、いくつもいくつも思いつくが、自然景観の美だけではなく、その中に含まれながらも、自分達の生活の軌跡を景観の中に調和させ、そこに根をおろし、日々の暮らしを成り立たせているひとの生活を含む景観の美であった。多くの人が総体としての瀬戸内海という地域の景観美にひきつけられてきた。
 2010年7月から10月までの4ヶ月間、瀬戸内海の海洋美を大いに意識した現代美術の展覧会があった。主催は瀬戸内海国際芸術祭実行委員会であるが、会長を香川県真鍋知事と後任の浜田知事、総合プロデューサーを財団法人直島福武美術館財団の福武理事長、総合ディレクターを北川フラム氏という陣容で大規模で斬新な切り口の美術展が開催された。会場は香川県の直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、岡山県の犬島という7島であった。そこに住む住民、芸術家、行政マン、実行委員会にたずさわったボランティアも含めての実務者、そして方々からやってきた観賞者としての旅行者という、全く目的も行動様式も意図も違う人が瀬戸内海の島々を舞台に大勢行きかった。そして芸術祭はそれぞれの人に様々の思いや感想や達成感を残した。
 私達は主要な会場となった香川県海域にある大学としてできるだけの協力をした。またそれを研究としてウォッチしたいと考えた。この本では瀬戸内海島嶼にとっては島々にとっていろいろな意味でインパクトの大きいイベントについて島の側から記録を残しておく必要があると考える。いや研究テーマとして、今後の学問につなげたいと考える。そういう論考を並べた。
 芸術祭の開かれない島々でもそれぞれの時間は流れていた。いくつかの別の系譜のイベントが起きていた、島の時間・空間を考える論考も掲げた。小さな島に起きている年金世代のUターンや、小豆島の国立公園設立以前の島の人の自分たちの歴史を掘り起こす誇らしさという、明るい変化のきざしの小論もある。そして古くからの歴史遺物による、瀬戸内海の海域の交流の歴史遺物を訪ねる旅として、各種の交通機関を利用して見どころを学術的に説明しようとした論考もある。小豆島に残されてきた島遍路の巡礼路は歴史的に変化してきた。明治時代の神仏分離以前の姿を復元しようとした論文では、江戸時代に札所であった神社の景観としての素晴らしさや、遍路の八十八ヶ所の巡礼の含んでいた宗教的な意味の分析した論考をならべた。
 瀬戸内海を吹き抜ける爽やかな風と共に私たちの作品をお送りできれば幸いです。
  著者を代表して 稲田道彦 2012.02.06

【目次】
はじめに
1章 瀬戸内国際芸術祭の住民評価とその規定因(室井研二)
2章 瀬戸内国際芸術祭におけるGPS軌跡データに基づいた観光者行動分析(金 徳謙)
3章 瀬戸内の島々の最近の光明―志々島と小豆島―(稲田道彦)
4章 瀬戸内海道遺跡めぐり(丹羽佑一)
5章 古式小豆島遍路の風景(大賀睦夫)

【著者紹介】
〔編集者〕
香川大学瀬戸内圏研究センター
〔著者〕
室井 研二
金 徳謙
稲田 道彦
丹羽 佑一
大賀 睦夫