昭和わたしの証言Ⅴ
ISBN:9784863871519、本体価格:1,500円
日本図書コード分類:C0023(一般/単行本/歴史地理/伝記)
374頁、寸法:148.5×210×20mm、重量558g
発刊:2021/08

昭和わたしの証言Ⅴ

【まえがき】
昭和は第一次世界大戦や関東大震災など動乱の大正時代に続き、その初期は軍部の台頭、満州事変の勃発など物騒な時代であった。
昭和16年には、ついに太平洋戦争がはじまる。そして、昭和20年、広島と長崎に原爆が投下され、ポツダム宣言を受諾し、終戦となり、GHQの占領政策が始まる。艱難辛苦をのり越え、我が国は早々と復興する。繁栄が続き、昭和30年前後には家電製品が普及し、「神武景気」という言葉が飛び交う。新安保条約の強行採決や国民所得倍増計画などが思い出される。
昭和39年、東京オリンピックの開催、昭和47年、沖縄県の本土復帰、昭和52年、男女とも平均寿命が世界一などニュースは続く。昭和58年頃にはワープロ、パソコンなどが急速に普及する。昭和62年、地価の高騰が続く。昭和64年、元号は平成となる。「戦後は遠くなりにけり」である。
そして、早や平成時代も過ぎ、令和3年となる。「昭和は遠くなりにけり」の感が強い。
14、5年前の話だが、仲間内で「あの戦争のときのことは忘れられない」と、しばしば話題に上る。そして、津森明と私の両人が友人知己に声をかけて、戦中、戦後の経験を自分史と併せて執筆して頂く。知られざる昭和の出来事も垣間見られ、「昭和わたしの証言」として、冊子にまとめた。
同じような趣旨で、執筆者の賛同を得て、平成25年までに、第4巻まで上梓した。
その後、執筆者代表の津森明先生が他界され、本誌の編集は中断のやむなきに至った。
今回、山崎敏範香川大学名誉教授の支援を得て、「昭和のわたしの証言Ⅴ」を発刊する運びとなる。本書が今までの4巻と同じように、わが国の昭和期を検証し、未来を考える縁となれば、望外の幸せで、故津森先生も大変喜ばれるに違いない。
最後に、ご多用中にも拘らず執筆頂いた各位に深甚なる謝意を表するとともに、厚く御礼申し上げたい。
 令和三年 盛夏 西岡 幹夫

【あとがき】
書くことの苦手な私が編集を引き受けた。1万5千字、原稿用紙40枚強の大量の原稿を大勢の方にお願いしなければならない。原稿執筆料なし、出版費用は割り勘でという企画である。友人知人に恐る恐る勧めてみる。案の定殆どの方々は後ろ向き。「時間取れな
い」「書くことない」はまだしも「原稿用紙40枚も書いたことないわー。難しい!」との感触。なるほどそうか。原稿用紙10枚程度、4千字くらいなら何とかなるか。原稿集めが最優先、執筆要綱を見直す。4千字を目安に原稿を依頼する。
そのうち「本に載せる文章など書いたことない、―1度でよいから自分の載った本も読みたい」「孫たちに私のことを残したい」「面白そう、書けるかどうか」「せっかくの機会だから」とお引き受けいただけそうな方々も出始める。「告別式の土産にしよう」と言った人もいる。
執筆動機は様々だったが締め切り直前の2021年3月には、続々と原稿が集まる。殆どが目安文量を超える。心配は杞憂だった。26人の執筆者は、これまでの最高人数。94歳から56歳まで多様な経験を有する執筆者が揃う。香川菊池寛文学賞受賞者、著名な大学医学部元教授やフランス文学研究者、現役のジャーナリストの方々など。
元連絡船船長の紫雲丸事故の考察は同業者故の貴重な指摘である。当時小学校6年生だった私にとって、友人の父親の遭難死、修学旅行の中止変更などつらい経験も蘇る。戦病死した父親をめぐりたどる戦中、戦後の苦しい生活。美しい田園風景と子供の遊びから懐かしさが蘇る。貧しかった社会の様子など事実の持つ力に心打たれる。広島の胎内被爆者の困難に満ちた生活、九州大の捕虜生体解剖事件等、現代に生きる私たちも戦争による被害と加害の双方の事実を忘れてはならない。
高度経済成長に向かうニッポン。平和な環境の中、医学研究に励んだ青春の日々。ベビーブームの子供たちと受験戦争、まだまだ貧しい学生生活、結婚、子育てなど昭和のあれこれが浮かぶ。女性執筆者も6人あった。女性故に受けた就職差別や職場の問題、育児
の喜びや困難等女性の視点も貴重である。
ゲームもテレビもない時代、子どもたちの遊びは自然と街の風景に溶け込む。忘れられない友人もあった。苦しく楽しい子どもの時間をこの本が思い出させてくれるに違いない。
愉快な思い出の中にピリっと顔を出す社会の圧力や矛盾。元新聞記者は平成のメディアの裏側を活写して興味深い。振り返って昭和を生きた私たちが共有する何かを次世代に手渡すのもあってよいのでは―。身近な人に長い話をするのは案外難しい。文章なら残る
かもしれない。残らなければそれもよい。ここに集まった文章には家族や友人、同僚、、恩師への感謝とかけがえのない自分の人生を慈しむ思いが満ちている。読者に何かしらメッセージが伝わることを願う。
美しい故郷の自然や先に逝った先達の知恵、あの時阻止出来ず沢山の犠牲を出した戦争について、語り合う手がかりが要る。個人のささやかな思いや事実を記録し残すことの意味はそこにある。執筆者の思いがつぎの世代に伝わることを願って編集の任に当たった。得難い経験をさせていただいた。
執筆者のお一人で宇高連絡船元船長・萩原幹生氏には、表紙と本文中の切り絵利用のご快諾をいただきました。またコロナ禍とオリンピック開催の騒然とした状況にもかかわらずA5版への変更など困難なお願いもご快諾された美巧社様、ご関係の皆様に深く感謝いたします。
執筆者のお一人宮武都様は2021年4月3日老衰のため逝去された。コロナ禍のためお目にかかれないままであった。彼女の書かれた「生る命」の中から数編を採録させていただいた。本書の完成を一番に報告したい。
 2021年8月 76回目の終戦記念日を迎える盛夏 山崎 敏範

【目次】
まえがき  西岡 幹夫
生まれる命  宮武 都
鍬の戦士  野口 雅澄
父の昭和史  猪又 清之
ご存知ですか、東かがわ市の手袋産業  橋本 康男
終戦前後の記憶から  篠崎 文彦
私と昭和から平成  江里 健輔
民主主義と野球の世代の子供たち  中澤 淳
紫雲丸事故  萩原 幹生
夢を追う  西岡 幹夫
私の昭和  沖田 極
昭和わたしの証言  伊丹 淳一
昭和から令和への時の流れ  長尾 省吾
高松の思い出  多田 克昭
広島の川  小笠原 ユキ子
昭和の記憶  柏木 隆雄
学寮  宮野 惠基
三谷に生きて  太田 和代
不易なるものを求めて  真屋 正明
私の昭和時代「大阪から和歌山、香川へ」  阪本 晴彦
昭和から令和へ  横田 ひとみ
写真と山と家族と  佐藤  功
桃実る丘のふもとで  山崎 千津子
夢のまた夢  水重 克文
去り行く昭和のアパート  北原 峰樹
タイムカプセルを開けてみたら  渡辺 智子
「記者クラブ」と「報道の自由」  三宅 勝久
執筆者紹介(50音順)
あとがき  山崎 敏範

【著者紹介】
〔編著者〕
西岡 幹夫
山崎 敏範
〔著者〕
宮武 都
野口 雅澄
猪又 清之
橋本 康男
篠崎 文彦
江里 健輔
中澤 淳
萩原 幹生
沖田 極
伊丹 淳一
長尾 省吾
多田 克昭
小笠原 ユキ子
柏木 隆雄
宮野 惠基
太田 和代
真屋 正明
阪本 晴彦
横田 ひとみ
佐藤 功
山崎 千津子
水重 克文
北原 峰樹
渡辺 智子
三宅 勝久
〔イラスト〕
萩原 幹生