ナラティヴ・アプローチと多職種連携(第2版)
ISBN:9784863871106、本体価格:800円
日本図書コード分類:C1037(教養/単行本/社会科学/教育)
76頁、寸法:148×210×7mm、重量125g
発刊:2020/01

ナラティヴ・アプローチと多職種連携(第2版)

【はじめに】
 私は,ナラティヴとは何か,どのように実践をとらえていけばよいのか,ナラティヴに着目した研究とはどうあるべきか。語りに着目し,その語りを記述し,その語りが変容していく中で,そこに生じている現象を何とか研究の対象としたいと思っていました。カウンセリングや心理療法を本業とする私ですが,その過程をどう伝えていくのか,研究の土壌にのせるのかなど,今までもとても悩みながら実践や研究をしてきました。カウンセリングのプロセスは,まさに生き生きとした過程そのものであり,常に変容していきます。とどまることはないのです。その過程にこそ,人は息をついたり,感動したり,元気になったりするのだろうと思います。ほっと息をつくことのその過程は,何かによって与えられるものではなく,自分と自分を取り囲む世界の在りようと関係があります。同じ経験をしていても,まったく異なったとらえ方や感じ方があります。そのような過程や変容といえるものを,どのように描き出すのか,“生きる” ということの過程として,“生きる” ことを支える多領域の先生方と共有したいと思っておりました。エビデンスをもった研究には,その当事者の言葉がないことが多いです。エビデンスは大切ですが,一方で,当事者が居る研究が必要だと思っております。当事者の語りには,“生きたナラティヴ” があります。
 私は,「ナラティヴを,プラットフォームとして,多職種をつなげるという考え方」を,香川大学の未来のコンセプトにできたらなどと思っております。立命館大学森岡先生のご講演のなかで,企業もナラティヴに着目しているというお話がありました。どういう物語りで消費者は,例えば,車を購入するのか,そこにナラティヴの考え方が必要とのお話でした。私は,商品デザインとも密接に関係していると思います。ものづくりには,ナラティヴが必要なのです。看護領域では,ナラティヴによる実践がとても進んでいます。患者の生と死の心に向き合う看護師は,医療技術を用いた治療だけではなく,その人がどのように特別な個人として生きているのかに向き合わざるを得ないと言えます。看護の場面で,どのようにナラティヴと出会っていくのでしょう。その気づきは,看護師と患者のどのような力になるのでしょうか。
 香川大学の筧学長からも,エビデンスの考え方は,もうすでに多くの領域で進んでいるので,ナラティヴという,未開拓な部分に焦点をあてて,他の学部でもナラティヴに着目している実践があるから,それらとのつながりで多職種連携を進めてほしいなどの言葉を頂きました。ナラティヴに関する関心や期待は,大きいと思います。
 あらためて,シンポジストの先生方に事前にお送りしたメールを読み直していると「とにかく,刺激的な感じのシンポジウムにしたいと思っております」という内容を送っていました。そのような場が,生きたナラティヴが生成されたのでしょうか。
 本書は,森岡先生をはじめ,シンポジストの先生方の“ナラティヴ” を再構成しようとする試みです。逐語という形でお示しすることで,オルタナティヴなストーリーが輝きだす出すことを狙っております。「対話によるつながり」と「多職種の組み合わせによる創造」が,今後展開していく通過点であると思っております。
   竹森 元彦

【おわりに】
 森岡先生には,お忙しい中,基調講演ならびにシンポジウムでのコメントなど,たくさんの学びをさせてくださり,誠にありがとうございます。「ナラティヴ」という言葉をどう用いたらよいのか,迷いながら日々実践をしていますが,今回のご講演やシンポジウムによって,より自信をもって使っていけるのではないかと感じております。また,今回のテーマである,「ナラティヴと多職種連携」については,シンポジウムにて,多職種の方の実践の様子が示されることによって,その共通性と多様性,そして地域実践の全体像が,森岡先生のご講演の枠組みのもと,つながってきたように思います。
 森岡先生から頂いたメールの中の言葉に「多職種のつながりの場として,“胎動”を感じる」と御座いました。日本一小さな県である香川県であるからこそ,できるのかもしれないと思いました。今後とも,香川県・香川大学の取り組みにご支援賜れたらと存じます。
 和田先生におきましては,お忙しい中,貴重な研究成果を教えて下さり,ありがとうございます。生きたナラティヴであることを,どうしていくのかなど,考えさせられました。今回は,先生のご研究の入り口あたりのご紹介なので,今後,もっとお話しくださる場所があればありがたいです。
 教育学部の伊藤先生におきましても,これまでの実践とその理論的枠組みをご提示くださり,「ナラティヴ・エデュケーション」という言葉と共に,教育の方向性をお示し下りました。大和田先生は,教育の現場の中でどのようにナラティヴの理論をもって,生きた教育をなさっているのかなどご紹介くださりました。とても大切な教育の考え方であるというフロアからのご意見に,ご参加の皆さまが頷いていらっしゃいました。
 前川先生におきましては,本事業の申請時から,ご賛同下さり,シンポ当日は,司会をお願いをいたしました。「ナラティヴなら」と,和田先生にもお声かけくださり,ご配慮をいただきました。誠に感謝申し上げます。教育・看護・福祉・心理という全体の中で今後何もかも考えていく必要性があると思っております。シンポの場が和やかな場であったのも先生のおかげです。
 研究補助として,事務補助の津山さん,内原さんにも大変お世話になりました。
 院生の皆様におきましても,ご準備や当日の設置,片付け,そして逐語起こしなどご協力いただきました。前を向いて,一緒に“生成” してくださり,感謝を申し上げます。
 ご賛同くださったフロアの皆様にも感謝申し上げます。これからも,語り合いの場(研究会)を生成していきたいと思っております。先日も,このシンポを受けて,ご自身のご研究のお話をしてくださった先生にお会いしました。“顔をみての語り合い” によって,つながっていけることを実感しております。
 なお,今回の基調講演とシンポジウムの実施は,香川大学の「多職種との連携を軸とした臨床心理学研究推進経費」によるものです。研究課題は,「『ナラティヴ・アプローチ』の概念に着目した,臨床心理・教育・保健医療・福祉の臨床実践の展開と交流による多職種協働の検討」でした。ここに記して深く御礼申し上げます。
   竹森 元彦

【目次】
はじめに(竹森 元彦)
第Ⅰ部 基調講演「臨床実践とナラティヴ・アプローチ」立命館大学総合心理学部教授 森岡 正芳
 Ⅰ.心理実践とナラティヴ
 Ⅱ.想起と語り 自己の回復
 Ⅲ.病の語り
 Ⅳ.人が語り始める時 当事者の視点
 Ⅴ.まとめ 実践のモメント
第Ⅱ部 シンポジウム テーマ:ナラティヴ・アプローチと多職種連携-ナラティヴをプラットフォームとしたつながりと創造-
 実践報告1「身近にあった病いの語り」京都学園大学健康医療学部看護学科 和田恵美子
 実践報告2「『学ぶこと』と『生きること』をつなぐ『ものがたり』」香川大学教育学部附属坂出中学校 大和田 俊
 実践報告3「『学ぶこと』と『生きること』をつなぐ『ものがたり』から生まれる『物語り』」香川大学教育学部 伊藤 裕康
 実践報告4「認知症デイサービス・アクションリサーチ 実践報告」香川大学医学部臨床心理学科 竹森 元彦
 討議 「ナラティヴ・アプローチと多職種連携」
おわりに(竹森 元彦)
講師・シンポジスト
アンケートの自由記述について

【著者紹介】
〔編著者〕
竹森 元彦
〔著者〕
森岡 正芳
大和田 俊
伊藤 裕康
前川 泰子
和田 恵美子

【研究協力】
津山 美香(つやま みか) 香川大学教育学研究科心理臨床相談室
内原 香織(うちはら かおり) 竜雲メンタルクリニック 臨床心理士