子どもたちが育つ学級経営 ~安心な居場所づくりのために~
ISBN:9784863871328、本体価格:1,400円
日本図書コード分類:C1037(教養/単行本/社会科学/教育)
166頁、寸法:148.5×210×10mm、重量260g
発刊:2020/09

子どもたちが育つ学級経営 ~安心な居場所づくりのために~

【はじめに】
 オンライン授業、分散登校、9月入学…。何年か後になって「あの頃、学校は…」と誰もがすぐに思い出す時代の今まさに真っただ中にいる。毎日が新型コロナウィルスのニュース一色で、臨時休業は3ケ月にも及ぼうとしている。学校がこのような状況になるとは、誰も想像すらしなかったことであろう。
 4月に新しい学年になって一週間程しか会っていない学級の子どもたちに、教師たちは、学校のHPや連絡メールを使ってメッセージを送り続けたり、家庭学習用のプリントや学習計画表を届けたりと、何らかの方法で子どもたちとつながり続けている。インタビューでマイクを向けられた子どもたちの多くが口にするのは、「早く学校に行って友達に会いたい」ということ。子どもたちにとって「学校」は、勉強を学ぶところであると同時に、友達と一緒に過ごすことができる「居場所」なのだ。
 子どもたちが「早く学校に行きたい」と願う「学校」とは、実は一日のほとんどを過ごしている「学級」のことである。子どもたちが早く行きたい「学級」をつくっているのは学級担任であり、その学級づくりが「学級経営」である。
 臨時休業中であっても、学級担任は学級経営を行っている。休み中の子どもたちとのつながりがあってこそ、学校が再開した時の友達や教師との出会いが、より大きな喜びになることだろう。
 私が初任者で赴任したのは、山間にある小さなへき地校であった。全国大会を3年後に控え、一学年一学級のため初任者でありながら学年での取組はすべて学級担任一人に任され途方に暮れていた。そのため、日直の時には各教室の戸締りを確認しながら、先輩の先生方の教室一つ一つの掲示物や提出箱など、様々なものを見てまねていった。もちろん教室経営だけでなく、へき地の自然を活かした独創的な体験活動など、小規模校ならではの自由な活動そのものが学級経営につながり、新採3年間の経験がその後の教員生活の基盤となった。
 今思えば、この3年間があったからこそ授業や学級経営の力をつけていただいたと、当時の先生方にはものすごく感謝している。しかし、あの頃の自分には全く余裕がなく、その日一日をなんとか終えることが目標だったように思う。
 皆さんの中には、これから教員を目指そうとしている人、今年初めて教壇に立ったけれど、なかなか思い描いたようにできないと感じている人、教師になって何年か経ち、教師の喜びや難しさを何度も繰り返し経験している人など様々な人がいることだろう。隣の先生の学級はうまくいっているのに、どうして自分の学級だけ…と思うことがあるかもしれない。でも、あなたの周りにいるベテランの先生方も、何十年か前は誰もが新採教員であり、おそらく同じように悩んだ時期があったはずである。それが、「来年も先生のクラスになりたい」という子どもからの一言で、また来年も頑張ろうと思えるのである。そうしながら、一年また一年と少しずつ教師としての経験を積み、特に深くかかわった子どもが卒業していく姿を見ると、それまでの悪戦苦闘した日々を思い出しながら、「教師になってよかった」としみじみと感じるのである。
 学校では、日々いろいろな出来事が起こり、学級担任はその場で臨機応変に対応しなければならない。一方で、その場だけでは解決しないことも起こる。そんな時は、放課後お茶を飲みながら他の先生方に話を聞いてもらうだけでも気持ちが軽くなり、翌日からのヒントがもらえるかもしれない。しかし、最近は働き方改革等で、学校を退庁する時刻がだんだん早くなっている。そのため、放課後ベテランの先生方に学級経営で困っていることのアドバイスをもらったり、気になる子の相談にのってもらったりする時間がなかなか取れなくなってきているのが現状である。
 そこで、本書は、教員を目指す学生や初任者教員、若年教員にとって、学級経営の基本的なことを分かりやすくまとめ、具体的な実践例を紹介することで、日々の学級経営の参考になればと考えた。学級担任の役割や学級の子どもたちの理解、また、気になる子どもへのかかわり等、学級担任として大切なことを「子どもたちが育つ学級経営」のコツとして、学校に活力を与える若い教員たちに伝えたい。明日からの子どもたちとのかかわりのヒントやエネルギーになれば幸いである。
  山本 木ノ実

【おわりに】
 本書は、学級経営の充実を実現させるためには、学級担任としての学級経営に関する基礎的な理解と子どもたちへの深い愛情が何より不可欠であるという思いから執筆がはじまった。そのような願いを込めて、タイトルを「子どもたちが育つ学級経営」とした。
 執筆にあたっては、香川大学と山口大学の教員の協力を得て、新規採用者や若年教員にとって参考となる実践の書としたいという願いを込めてきた。そこで、小・中学校で具体的に取り組んでいる学級経営の大切なポイントや事例等も交えて掲載する形で全体を構成した。是非、教員をめざしている学部生、院生の皆さん、また教員として歩み出している方々にとって、教育実践の参考になるとともに、自分なりのより充実した学級経営へと繋げる拠り所の一助となればと願っている。
 学級は学年団や学校に属している。学年団主任や他の担任とも連携し、学校全体や学年団の方針、子どもの実態も踏まえて、自らの学級で何ができるか、是非検討してほしい。学級担任としてできること・すべきことは多様にあるが、まずは欲張りすぎず基本的なことを大切にしてほしい。その際に、学級経営を
どのように捉えるのか、まずはどのようなことに取り組もうとするのかを考えるうえで、基本的な点について本書での内容をヒントや視点として参考にしてほしい。
 編集にあたっては、学級経営に関する基本的な考え方だけでなく、実際の実践事例や具体的な対応例も含めて、読者への読みやすさを大切にしながら行ってきた。特に、1章「学級経営と学級担任」の概説的な内容を踏まえて、2章以降では具体的な取り組みや多様なアイデアにつながるように、特に第4章では実践事例をもとにまとめることとした。さらに、交流人事教員として香川大学教育学部准教授として活躍された池西先生には、イラスト風に絵で表現することで、より一層親しみやすさや分かりやすさを強調していただいた。
 周知のとおり、「学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない。(教育基本法第九条)。」と明記されている。目の前の子どもたちのことを思い浮かべながら、絶えず研究と修養に励むことは容易なことではないが、それだけ崇高な仕事であることを自覚してほしい。小学校教員の経験もある筆者が、皆さんに最も大切にしてほしいことは、目の前の子どもと真摯に向き合うということである。そのためにも、自己研修や教員としての自らを磨き高める姿勢が重要なのである。教師も人間であり、人生において多くの子どもたちや周囲の人々と関わりながら、どんどん自らの人間性、教師力を高めていかなければならない。
 若い頃、先輩の先生に、「子どもの心がみえる教師」をめざす大切さを諭された。どれだけ実践できたのか、振り返ると恥ずかしい限りである。大量退職に伴い、若年教員も一気に増加している現在、校内研修等でも学級経営について取り組みたいが、働き方改革等の背景からも、なかなか時間を確保しにくい現
状であろう。多忙感や拘束感を感じることが多くなっているとも言われるが、学校や学年、学級という組織の最大の鍵は人と人のつながりであり、互いの関係性である。そのためにも、互いに日々の笑顔を大切にしたいものだ。物事をみんなで推進していく際に、笑顔も大きな鍵であろう。
 恩師である故徳永悦郎先生には、ご自身が学級目標に掲げていた「笑ってみよう」の言葉とともに、苦しいときも互いに笑顔で支え合い助け合うことが、一番影響力があるかもしれないことを教えていただいた。
 「笑ってみよう」
  悲しくなったら 笑ってみよう  お腹の底から 笑ってみよう
  腹が立ったら 笑ってみよう   お腹の底から 笑ってみよう
  ああ 笑顔はすばらしい
 本書が学級経営の充実に向けて一層の推進となること、笑顔で学級経営が語り合える先生や学級が増えることを心より祈念したい。
  植田 和也

目次
はじめに
第1章 学級経営と学級担任
 Ⅰ 「学級経営」において大切にしたい視点
 Ⅱ 学級担任と学級経営の役割と責任
 Ⅲ 学級づくりと学級目標
 Ⅳ 学級の仕事と仕組み~係活動、当番活動を通して~
 Ⅴ 学級の雰囲気と教師
 【コラム1】 ネット空間における空気
 Ⅵ 「学級経営案」の構想と学級づくり
 Ⅶ 授業を通した学級経営~授業で子どもと子どもをつなぐ~
 Ⅷ 授業中の学習規律
 Ⅸ 教室環境の工夫
 【コラム2】 話を聞く
第2章 学級における子どもたち
 Ⅰ 教室の仲良しグループ(インフォーマルグループ)
 Ⅱ 学級におけるいじめの構造と特徴
 Ⅲ いじめ・ネットいじめの予防と対応
 Ⅳ 子ども理解と学級集団づくり
 Ⅴ 望ましい人間関係づくり
 Ⅵ 学級で育つ子どもたちのために
 【コラム3】 ほめて知らせる
 【コラム4】 子どもの様子から知る
第3章 気になる子どもや保護者とのかかわり
 Ⅰ 特別な支援を要する子どもへのかかわり
 Ⅱ 逸脱しがちな子どもへのかかわり
 Ⅲ 不登校の子どもへのかかわり
 Ⅳ 保護者とのよりよい関係づくり
 【コラム5】 ちょっとした配慮をする
第4章 学級経営の実際
 Ⅰ 私の学級経営実践事例Ⅰ~子どもと目指す姿を共有しながら進める学級経営~
 Ⅱ 私の学級経営実践事例Ⅱ~地域に根ざし、子ども一人一人の自主性を育む学級経営~
 Ⅲ 私の学級経営実践事例Ⅲ~係活動を通して~
 Ⅳ 多様な対応力の向上を目指して~日常での場面指導~
 【コラム6】 なくなった物を探す
 おわりに

【著者紹介】
〔編著者〕
山本 木ノ実
植田 和也
金綱 知征
松岡 敬興
藤上 真弓
〔著者〕
毛利 猛
清水 顕人
笹屋 孝允
岡 静子
池西 郁広
〔イラスト〕
佐々木 啓祐