教員としてのホップ・ステップ ~磨こう 授業力・学級経営力~
ISBN:9784863870833、本体価格:1,500円
日本図書コード分類:C1037(教養/単行本/社会科学/教育)
137頁、寸法:148.5×210×9mm、重量224g
発刊:2017/04

教員としてのホップ・ステップ ~磨こう 授業力・学級経営力~

【発刊にあたり】
~若手教員の皆さんに伝えたいこと~
 この本を発刊するにあたり、若手教員の皆さんにお伝えしたいことがある。私自身も、教師としてまだまだ未熟で、日々の授業や子どもの指導に苦闘していた時代がある。いや、未だに成長の過程にあるのかも知れない。
 我が家の冷蔵庫には、結婚半月後、初めて夫婦喧嘩をした時の反省の言葉が掲げられている。それは、「結婚したから夫婦になるのではない。共に苦労を分かち合い、互いに助け合い支え合うことによって夫婦になる。」という言葉である。教師も同じである。教員に採用されたからと言って、最初から一人前の立派な教師となるわけではない。子どもと向き合い、日々の教育実践に悩み苦しんだり、時には喜びを味わったりする経験を通して、次第に一人前の教師へと成長していくことができるのではないだろうか。
 本書の中には、教員養成系大学において、実務家教員として教員の養成に取り組んでこられた方々の、これまでの経験に裏付けられた、素晴らしい教師となるための知恵や期待が込められている。ぜひそれらから多くのことを学び、自らにとって、そして、何よりも子どもたちにとって素晴らしい教師となるよう次の新たな一歩に向けて進んでいただきたいと願う次第である。

 以下に、若年の頃、先輩から学んだ多くの中で、3つの言葉を記し、発刊の言葉としたい。
〔1 井の中の蛙、大海を知れ! ~視野を広げる~〕
 「井の中の蛙、大海を知らず」という言葉をよく聞く。狭いところにいたのでは、見えるものも見えなくなる。自分の学校の中だけでなく、他の学校や地域へも学びの場を広げること。そして、限られた人間関係だけでなく、様々な人たちから学ぶこと。さらに、本を読んだり、様々な文化や芸術を直接体験したりするなど、様々な知見を深め、教育以外の世界にも関心を持つことが大切である。このように自分の学びの世界を広げること、つまり自分の視野を広げることは、自分の人間としての幅を広げ、よりよい教育実践を行うための資質能力の向上にもつながるものとなろう。
〔2 他人の褌で、相撲を取れ! ~抱え込みから脱却する~〕
 「他人の褌で、相撲を取るな」という言葉をよく聞く。人に頼ったり、人を当てにしたりする生き方を戒め、自分の力で行うことの大切さを示した言葉である。確かに自らの力で行うことをせず、人に頼ってばかりではいつまでたっても自立できない。哲学者の鷲田清一氏は、ある講演の中で、自立と独立の違いについて触れ、「自立」は「inter-dependence(相互依存)」、「独立」は「in-dependence(非依存)」であるとして、「共生」の視点の重要性を示唆している。「自ら立ちつつ、共に生きることを学ぶ」。これは、香川大学教育学部附属高松中学校の講堂に掲げられている言葉である。これからの教育においては、自分一人で抱え込み思い悩むのではなく、先輩や同僚、保護者や地域の人々など様々な人と力を合わせチームとして取り組むことが求められている。
〔3 気配りのできる教師になれ! ~他者を慮る心をもつ~〕
 教師が身に付ける要件の一つとして、子どもの視点に立って考えることのできる資質や、受容・共感的な態度が挙げられよう。また、子どもの指導に際して、保護者との連携協力や、2でも述べた教育活動を行う上での他の教師との協働体制は、これからのチーム学校として不可欠である。そして、これらの具体化のための資質能力として、他者を慮る心をもつことが不可欠である。
 保護者や同僚、そして何よりも子どもに対して気配りのできる教師になることを初任の頃に教えられたことが、自分の教員人生の中でも大切な教えとして生きている。
 「<こころ>はだれにも見えない けれど<こころづかい>は見えるのだ」「<思い>は見えない けれど<思いやり>はだれにでも見える」(「行為の意味」)という宮澤章二氏の言葉は、心の中で思うだけでは、その思いはなかなか相手に伝わらないということを教えてくれている。具体的に相手に見える形で心配りや気配りができることが、相互の理解を深め、互いの関係性を築くことにつながり、教師としてよりよい教育実践を行うことにもつながる。
 本書を手にした皆さんにとって、現在の自分を一歩でも前進させることに本書が役立つことを心より祈っております。
   七條 正典

【はじめに】
~先生方、お元気ですか?生き生きしていますか?~
 私が受け持つ教室(選修)では、毎年数回、卒業生(初任から経験5年目迄の若手教員)を招いて「先輩たちと語る会」を開いている。新年度も1ヶ月が過ぎた頃、5月の「会」に現れる彼らの表情や言葉は様々である。後輩たちの前では教職の喜び、魅力や使命感を格好良く語りながらも、私たちには苦悩や戸惑いをチラチラと投げてくる。
 初任者(1年目)「先生、もう無理。私向いてない。辞めたい。」...2年目「去年よりは楽だけど、手厚かった初任研(初任者研修)が終わって全部自分でやらなきゃ。それがきつくて。」...3年目「崩壊してます。授業も学級も。子どもとの関係がイマイチなので保護者との関係も。どうしよう?って感じです。」...4年目「この春、異動(転勤)でした。前の学校と何もかも違います。子どもというよりは先生方との人間関係が難しい感じです。」...5年目「大きな仕事を任されたんですが、実際よく分かっていなくて。今まで楽をし過ぎました。」...彼らの苦悩や戸惑いも様々で尽きることはない。
 笑顔で頷きながら、「大丈夫、大丈夫」と声をかけながら、この国の若い教員たちに声をかけたくなる。「先生方、お元気ですか?生き生きしていますか?」

 現在、全国の教員養成系大学には「交流人事教員」と呼ばれる大学教員がいる。交流人事教員とは、学部や大学院の専任教員のうち、大学と教育委員会との人事交流制度に基づき、教育委員会から任期を定めて大学に派遣される教員のことであり、任期終了後は、原則として、学校や教育委員会の教職員に復帰する教員である。大学における教員養成・教員研修機能の活性化や教育委員会との連携強化を図るため、平成15年度、香川大学と香川県教育委員会との間に誕生し、現在では全国30以上の大学に交流人事教員が存在する。
 平成17年度には、各地に誕生し始めた交流人事教員のネットワークを構築するため、「全国教育系大学交流人事教員の会」が結成された。以後毎年、交流人事教員、交流人事教員OB・OGや志を同じくする「実務家教員(高度の実務能力、教育上の指導能力や学校教員としての勤務経験を有する大学教員)」が一堂に会して「研究交流集会」を開催してきた。研究交流集会では、私たち交流人事教員自身の大学教員としての力量を高める研修、教師教育に関する調査研究や各地の先進的実践を元にした研究協議等に加えて、教員の養成・採用・研修の一体化や教職生涯にわたる職能成長等について意見交換が行われている。
 その際、ほぼ毎回、話題となるのが「送り出した(養成した)若手教員のその後」である。学校教育は、この国の将来を担う人材育成の基幹として大きく期待されながらも、様々な悩みや困難を抱えている。教職に高い「志」をもち、「夢」や「理想」を掲げて乗り込んだ若手教員が、押し寄せる教育課題への対応、教員用務の増大、教員の年齢構成の不均衡や校内事情等により苦しむ姿が、各地から報告される。

 「大学は卒業まで、教育委員会は採用してからといった分断的で狭い考えは捨てよう。送り出した私たちの責任として応援していこう。教員の養成と研修をパッケージで捉えよう。」、「先輩教員から若手教員への知識技能や教員文化の伝承が困難になる中、私たち自身のささやかな経験や教訓が、若手教員たちの役に立つなら喜んで提供しよう。」
 本書は、皆さん若手教員にとって「少しだけ年上の先輩たち」が、このような思いを込めて執筆したものである。
 第1章は「教員を志した初心を忘れずに」として、若手教員へのメッセージを、第2章は「授業力の向上をめざして」、第3章は「学級経営力の向上をめざして」として、学習指導や学級経営に関する具体的なアドバイスを、そして第4章は「教育というすばらしい道」として、教育や教職に対する思いと若手教員へのエールをまとめた。
 私たちは、この国の若手教員たちを、「仲間」、「同志」として心から応援し、本書が、若手教員たちの日々の教育実践や今後の教職キャリア形成の一助となることを強く願うものである。
 最後に、本書の刊行にあたり、監修をお願いした七條正典先生、保坂 亨先生、齋藤嘉則先生には、格段のご協力をいただいた。心より感謝の意を表するものである。
   全国教育系大学交流人事教員の会 会長 霜川 正幸

【おわりに】
 初任者として赴任した小学校を訪問する機会があった。始業式後に校庭にある「希望」の石碑とともに子どもたち一人一人の写真を撮影して、黒板の上に掲示していたことが懐かしく思い出される。教員としてスタートを切った時の初心を忘れないようにと、自分のその写真をずっと大切にしている。
 それから30年が経ち、自分が歩んできた道を振り返ると、多くの出会いといくつかの転機があった。常に誰かに支えられたり、誰かに背中を押していただいたりして、失敗や苦しかった出来事も含めて様々な経験を積み重ねてきた。
 この度、全国教育系大学交流人事教員の会の皆さんの協力を得て、新規採用者や若手教員にとって、具体的な事例等を掲載する実践の書としたいという願いをこめて、「教員としてのホップ・ステップ」を編集してきた。是非、教員として歩み出している皆さんにとって、教育実践の参考になるとともに、自分なりのホップ・ステップへと繋げる拠り所の一助となればと願っている。
 今のあなたにとって、できることからの一歩でよい。「いままでのわたし」と「いまからのわたし」を意識して取り組んでみよう。そして、実践に基づきながら自らの教育方針や教育哲学を一つずつ見つめ直し問い返してほしい。 せかず あせらず ひたすらに 一歩 一歩 もう一歩 周知のとおり、教育基本法第九条には、「学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない。」と明記されている。絶えず研究と修養に励む姿勢が、自然とホップ・ステップにつながる歩みとなるであろう。容易なことではないが、それだけ崇高な仕事であることを自覚してほしい。
 最後に、本書の刊行にあたり、ご多用のなか執筆いただいた各先生方に感謝の意を表するものである。
   平成29年立春  植田 和也

【目次】
発刊にあたり ~若手教員の皆さんに伝えたいこと~(七條 正典)
はじめに ~先生方、お元気ですか?生き生きしていますか?~(霜川 正幸)
【コラム】学校・学級で役立つ何気ないコツをマンガで伝授①(池西 郁広)
第1章 教員を志した初心を忘れずに
1 自らの成長の自覚と新たな一歩~失敗を恐れず挑戦するエネルギーを~(植田 和也)
2 若手教員の魅力を生かして多様な経験を力に(土田 雄一)
3 あなた自身のメンタルヘルスとレジリエンス、そして日本社会の働き方を見直す(保坂 亨)
4 人とのつながりを成長の一歩に~「学び続ける教師」として、仲間とともに歩み続けよう~(霜川 正幸)
【コラム】学校・学級で役立つ何気ないコツをマンガで伝授②(池西 郁広)
第2章 授業力の向上をめざして
1 日々の授業で勝負できる力量を~子どもにとってよい授業とは~(佐瀬 一生)
2 プロとしての教師に求められるより深い教材研究(山下 隆章)
3 言語活動の充実を図る授業づくり~小学校国語科を例にした教材研究の在り方~(田﨑 伸一郎)
4 教材研究を通して授業力を磨く~算数・数学を例に~(大西 孝司)
5 発問と指示、助言について見直そう(池西 郁広)
6 板書を考えることで授業を設計しよう(日比 光治)
7 アクティブ・ラーニングを生かした授業改善(前原 隆志)
8 学習スタンダードづくりによる組織的取組(前原 隆志)
9 子どものつまずきを生かした授業づくり(植田 和也)
10 校内研究で“授業力”を鍛えよう~校内研究再興!再考!最高!~(一瀬 孝仁)
11 研究授業に臨む際に大切にしたいこと(藤上 真弓)
【コラム】学校・学級で役立つ何気ないコツをマンガで伝授③(池西 郁広)
第3章 学級経営力の向上をめざして
1 学級経営において大切にしたい基礎・基本(植田 和也)
2 子どもとの出会い・スタートを大切に~新年度、担任としてどのように子どもたちに関わるか~(高木 愛)
3 学級目標は生かせていますか~学級目標で「チーム」づくりをしよう!~(佐藤 盛子)
4 子ども理解と学級集団づくり(山本 木ノ実)
5 一人一人が輝く学級づくりをめざして(山下 真弓)
6 どの子も学級の大切な一員(西村 隆徳)
7 一人一人とのつながりづくり(静屋 智)
8 特別な支援を要する子どもを核とした学級経営(山本 木ノ実)
9 学級経営における危機管理(阪根 健二)
10 なるほど ザ 学級づくりのヒント(大西 えい子)
11 私の学級経営から皆さんに伝えたいこと~学級経営の柱を作る~(長友 義彦)
【コラム】学校・学級で役立つ何気ないコツをマンガで伝授④(池西 郁広)
第4章 教育というすばらしい道
1 どのようなことであっても「Manage to do」(神居 隆)
2 人生の転機を大切にしよう(蘒原 桂)
3 道徳の授業を通して、子どもから学ぶ(七條 正典)
4 「役割」と「覚悟」―司馬遼太郎「坂の上の雲」と「花神」から―(齋藤 嘉則)
【コラム】学校・学級で役立つ何気ないコツをマンガで伝授⑤(池西 郁広)
おわりに(植田 和也)
執筆者一覧

【著者紹介】
〔監修者〕
七條 正典
保坂 亨
齋藤 嘉則
〔編集者〕
全国教育系大学交流人事教員の会
〔編著者〕
植田 和也
霜川 正幸
土田 雄一
〔著者〕
池西 郁広
一瀬 孝仁
大西 えい子
大西 孝司
神居 隆
阪根 健二
佐瀬 一生
佐藤 盛子
静屋 智
高木 愛
田﨑 伸一郎
長友 義彦
西村 隆徳
蘒原 桂
日比 光治
藤上 真弓
前原 隆志
山下 隆章
山下 真弓
山本 木ノ実
〔イラスト〕
佐々木 啓介