中世の讃岐 第2版
ISBN:9784863870789、本体価格:2,000円
日本図書コード分類:C1021(教養/単行本/歴史地理/日本歴史)
304頁、寸法:148×210×13mm、重量334g
発刊:2016/11

中世の讃岐 第2版

【はじめに】
 中世の讃岐を絵解きしてみたい。当時の景観を再現してみたい。その時の場面を描画してみては、との想いがあった。幸い先行出版された『古代の讃岐』と『近世の讃岐』とがあって、本書はシリーズとして両書の間隙を埋める3冊目となるものであった。それらは見開き頁を写真と文章で構成されている。これは、引き継ぐべきポリシーだと思った。
 しかし、そんなに都合よく中世の絵画史料が揃っているわけでもない。古文書・古記録の類は、ビジュアルではない。現在の写真を使って説明するにも好機の画像を得られるとは限らない。そのような不安が脳裏をよぎった。さほどに中世の写真資料は本文と乖離してしまうことが多い。でもやるしかないと……。ならば、可能な限り「読みやすく」を心がけたつもりである。新たな中世の歴史的景観を創り出せたとすれば幸甚である。
 中世の讃岐は、これまで「華」がなく、配流の国柄として暗いイメージで語り始められることが常のようであった。それは、崇徳上皇や法然・道範などの貴人・高僧といえども流人の立場から悲壮感が漂う一面があったからかもしれない。けれども、古来「臨海の近国」という表現があって、これは必ずしも讃岐国を指すものではないが、中世の当国は常に京洛の政治や文化の影響下、というよりはそれらを担う当事者の往復によって畿内に密接した「近国」という位置を占めていたと思われる。都鄙を行き来すること、つまり、京都に上洛し讃岐に下向するためには瀬戸内海という交通の場があることは言うまでもないが、この海が、実は中世では交通の障壁ではなく、むしろ交通の利便性を増すものであったことを知るべきである。現代の我々は、海や川は交通の妨げでしかないが、中世では、逆に、それを増進させるものであった。
 本書は、また、「四国」という視野、具体的には阿波や伊予・土佐から見た中世の讃岐についても表現してみようと思案した。そこで、特別寄稿者として、それぞれ在地の研究者からの玉稿を鏤めさせてもらった。従来の郷土史関係書と一味違った特色を持たせたのではないだろうか。さらに県内の寄稿者からは執筆内容の狭間を補っていただいた。
    平成17年7月吉日  唐木 裕志

【あとがき】
 平成15年12月に第1回編集会議が開かれた。それから数えること9回にわたる編集会議は、時に深夜に及ぶこともあった。それは少しでもいいものにしたい、多くの読者に本書を活用してもらいたい、との編集委員の願望からでもあった。『中世の讃岐』の刊行の構想から10余年、紆余曲折のなか、本書はやっと日の目を見ることができた。
 『香川県史』が刊行されてから早17年が経過した。9年間の歳月をかけて行われた編纂事業により、これまでになかった新たな讃岐の歴史が具現化された。それ以後、いくつかの市町史が刊行されたが、県史を基礎としてその上に新たな歴史が構築されてきた。
 今、平成の大合併が全国各地で進行している。香川県もその例外でない。合併により町名が消滅してしまうと、あわてるかのように町史の編纂が各地で行われている。歴史的由緒ある地名が消滅していくことは、歴史に関わる一員として悲しい。このような時こそ、後世に伝えられる讃岐の歴史を再度編集する必要に迫られる。そのような思いで、本書は刊行された。
 編集委員のメンバーは、いずれも近年の自治体史の編纂に携わった者たちである。先のような思いを持ちつつ、本書の執筆にあたった。ただ、従来の讃岐の歴史をそのまま記述するのではなく、新たな視点で記述することに努めようとした。そこで四国中世史研究会の会員に協力を依頼した。阿波・伊予・土佐の三国から讃岐を見据えるならば、何が見えるであろうか。その成果は、本書の随所に現れていると自負する。
 また、近年の研究成果を多く取り入れた。例えば中世城館跡詳細分布調査や、遺跡発掘調査、絵画資料の検証などである。文献だけにとらわれるのではなく、発掘資料なども大いに活用した。
 開発という名のもとに破壊されてきた遺跡や史跡は枚挙にいとまない。今こそ先人が伝えてきた歴史文化を、我々は後世に伝えていかねばならない使命を持つ。本書がそのための一助になれば幸甚である。
 なお、本書の編集にあたり多くの方々にお世話になった。ご協力くださった関係者各位と執筆者の方々に厚くお礼申し上げる。
   平成17年7月吉日  橋詰 茂

【目次】
はじめに(唐木 裕志)
目次
第一章 中世誕生(渋谷 啓一)
 (1) 南海道から中世の大道へ(渋谷 啓一)
 (2) 受領と在庁官人たち(渋谷 啓一)
 (3) 「氏」から「家」へ(渋谷 啓一)
 (4) 荘園の形成(渋谷 啓一)
 (5) 来世への祈り(渋谷 啓一)
第二章 武士出現(渋谷 啓一)
 (1) 瀬戸内海の海賊と純友の乱(渋谷 啓一)
 (2) 武士の誕生(渋谷 啓一)
 (3) 保元の乱と崇徳上皇(渋谷 啓一)
 (4) 崇徳院怨霊(渋谷 啓一)
 (5) 寂然の来讃(渋谷 啓一)
 (6) 西行の軌跡(渋谷 啓一)
第三章 屋島合戦(渋谷 啓一)
 (1) 義経の屋島攻め(渋谷 啓一)
 (2) 平家物語の世界(渋谷 啓一)
 (3) 在庁官人らの動向(渋谷 啓一)
 (4) 楽所と舞童(唐木 裕志)
第四章 鎌倉武士(唐木 裕志)
 (1) 讃岐の守護と国司(唐木 裕志)
 (2) 承久の乱(唐木 裕志)
 (3) 讃岐の地頭(唐木 裕志)
 (4) 讃岐の御家人(唐木 裕志)
第五章 荘園の村(萩野 憲司)
 (1) 百姓らの烈参(唐木 裕志)
 (2) 東讃の荘園(萩野 憲司)
 (3) 中讃の荘園(萩野 憲司)
 (4) 西讃の荘園(萩野 憲司)
 (5) 地下請と地頭請(萩野 憲司)
 (6) 中世村落の景観と暮らし(森 格也)
 (7) 寺院跡と墳墓(大山 眞充)
 (8) 海の荘園(橋詰 茂)
 (9) 町場の形成と為替(唐木 裕志)
 (10) 武士の居館(森 格也)
 (11) 中世の港湾施設(松本 和彦)
 (12) 中世の道(唐木 裕志)
第六章 元寇揺籃(唐木 裕志)
 (1) 元寇と讃岐武士(唐木 裕志)
 (2) 異敵降伏祈祷(唐木 裕志)
 (3) 秋山氏来讃と皆法華(唐木 裕志)
 (4) 法然上人の讃岐配流(唐木 裕志)
 (5) 道範と『南海流浪記』(唐木 裕志)
 (6) 一遍の讃岐遊行(山内 譲)
 (7) 讃岐一宮と総社(唐木 裕志)
 (8) 鎌倉期の宗教文化(唐木 裕志)
 (9) 中世讃岐の文芸(唐木 裕志)
 (10) 悪党と海賊(久葉 裕可)
 (11) 大般若経転読(唐木 裕志)
 (12) 白雲ら禅僧の輩出(唐木 裕志)
 (13) 国分寺の復活(唐木 裕志)
 (14) 宥範と善通寺中興(唐木 裕志)
第七章 東奔西走(唐木 裕志)
 (1) 元弘の乱と建武政権(唐木 裕志)
 (2) 讃岐の南朝勢力(唐木 裕志)
 (3) 安国寺・利生塔供養(唐木 裕志)
 (4) 観応の擾乱と讃岐(唐木 裕志)
 (5) 讃岐守護細川顕氏と頼春(福家 清司)
 (6) 白峰合戦(唐木 裕志)
 (7) 足利義満と細川頼之(唐木 裕志)
 (8) 細川一族(福家 清司)
 (9) 阿波守護の讃岐経営(福家 清司)
 (10) 頼之の伊予攻略(山内 治朋)
第八章 上洛下向(橋詰 茂)
 (1) 守護細川氏(橋詰 茂)
 (2) 東方守護代安富氏(橋詰 茂)
 (3) 西方守護代香川氏(橋詰 茂)
 (4) 市と座(萩野 憲司)
 (5) 最古のインディカ赤米(唐木 裕志)
 (6) 守護所(唐木 裕志)
 (7) 讃岐の中世武士(橋詰 茂)
 (8) 増吽と熊野信仰(萩野 憲司)
 (9) 明王寺の文字瓦(石井 信雄)
第九章 内海順風(橋詰 茂)
 (1) 兵庫北関入舩納帳(橋詰 茂)
 (2) 讃岐の港津(橋詰 茂)
 (3) 中世の製塩(大山 眞充)
 (4) 国料と過書(橋詰 茂)
 (5) 遣明船と仁尾浦代官(橋詰 茂)
 (6) 海賊衆と警固衆(橋詰 茂)
 (7) 中世の都市(橋詰 茂)
 (8) 中世の石造物(松田 朝由)
 (9) 水主神社経函の材木(長谷川 賢二)
 (10) 讃岐円座(萩野 憲司)
 (11) 十瓶山窯業の展開(片桐 孝浩)
 (12) 中世の供膳具(片桐 孝浩)
 (13) 貨幣経済と出土銭(片桐 孝浩)
 (14) 中世の陶磁器(片桐 孝浩)
 (15) 本妙寺の隆盛と宇多津湊(唐木 裕志)
第十章 戦国遺文(橋詰 茂)
 (1) 応仁の乱と讃岐武士(橋詰 茂)
 (2) 永正の錯乱(橋詰 茂)
 (3) 讃岐の群雄割拠(橋詰 茂)
 (4) 三好氏の讃岐侵攻(福家 清司)
 (5) 天霧籠城(橋詰 茂)
 (6) 篠原長房の支配(福家 清司)
 (7) 塩飽水軍(橋詰 茂)
 (8) 元吉合戦(橋詰 茂)
 (9) 真宗の流布(芳地 智子)
 (10) 禁制(唐木 裕志)
 (11) 河野氏と伊予・讃岐(土居 聡朋)
 (12) 溜池と水利(唐木 裕志)
 (13) 中世の漁業(乗松 真也)
第十一章 城郭豊堯(古野 徳久)
 (1) 小豆島の中世城館(古野 徳久)
 (2) 守護所の遺跡(古野 徳久)
 (3) 東かがわ市の中世城館(古野 徳久)
 (4) さぬき市の中世城館(古野 徳久)
 (5) 高松市の中世城館(古野 徳久)
 (6) 香川郡の中世城館(古野 徳久)
 (7) 綾歌郡の中世城館(古野 徳久)
 (8) 坂出市・丸亀市の中世城館(古野 徳久)
 (9) 島嶼部の中世城館(古野 徳久)
 (10) 善通寺市・仲多度郡の中世城館(古野 徳久)
 (11) 西讃の中世城館(古野 徳久)
 (12) 中世末期の城館(古野 徳久)
第十二章 近世黎明(橋詰 茂)
 (1) 石山戦争と讃岐寺院(芳地 智子)
 (2) 塩飽の朱印状(橋詰 茂)
 (3) 宣教師の見た塩飽(橋詰 茂)
 (4) 塩飽検地(橋詰 茂)
 (5) 長宗我部氏の讃岐侵攻(市村 高男)
 (6) 香川氏の降伏(橋詰 茂)
 (7) 秀吉の制覇と讃岐(橋詰 茂)
 (8) 十河氏と前田東城跡(唐木 裕志)
 (9) 香五様の隠居(唐木 裕志)
 (10) 仙石秀久の入部(橋詰 茂)
第十三章 近世転変(橋詰 茂)
 (1) 生駒氏の入部(橋詰 茂)
 (2) 朝鮮出兵と讃岐(橋詰 茂)
 (3) 関ヶ原合戦と生駒氏(橋詰 茂)
 (4) 家康と塩飽(橋詰 茂)
 (5) 引田から丸亀移城(萩野 憲司)
 (6) 消えゆく古武士たち(橋詰 茂)
 (7) 大坂城残石と小豆島石材(石井 信雄)
参考文献
あとがき(橋詰 茂)
執筆者一覧

【著者紹介】
〔編著者〕
唐木 裕志
橋詰 茂
大山 眞充
渋谷 啓一
古野 徳久
萩野 憲司
〔著者〕
芳地 智子
石井 信雄
森 格也
松本 和彦
松田 朝由
片桐 孝浩
乗松 真也
山内 譲
久葉 裕可
土居 聡朋
山内 治朋
福家 清司
長谷川 賢二
市村 高男